出来た時は同じモノでも、時と共に所有者それぞれの思い出が宿ります。
それを物語る最たるものが形見の品ではないでしょうか。
今は亡き人の面影を感じる事ができるモノ。
モノ本来の価値を超えた、様々な思いがそこに宿っています。
今回の記事は、私の祖父が残した形見の腕時計を修復した記録です。
あまり大きな修復をするのは別物になってしまいそうで、しばらくは気が進まなかったのですが、
長年そのまま保管されていた為状態が悪く、少しでも見た目を綺麗にできないかと思い、修復をはじめました。
ケースはくすみ、ダイヤルは錆、風貌はヒビだらけ、ベルトはボロボロの可哀想な状態です。
修復手順
1:バネ棒の研磨
2:ケースの研磨
3:風防の研磨
4:ダイヤルの錆落とし
5:ベルトの新作
まずはボロボロのベルトを外し、汚れて炭化したように真っ黒になったバネ棒を外します。
ケースは金無垢の為、おそらくバネ棒も金無垢です。
磨けばもとの金色の姿を取り戻すはず・・・。
丁寧に磨くこと数時間、無事に金の素地が現れ、元の姿に近い風合いを取り戻すことが出来ました。
分解直後の真っ黒だった姿からは想像できないほどに綺麗になってくれました。
バネ棒を磨いた延長でくすみが出ていたケースも軽くポリッシング仕上げを施しています。
金無垢のケースは高価ですが、くすみが出ても磨けば元のように美しくなります。
他の素材にはない金無垢の魅力の一つです。
続いて、細かなヒビが無数に入っている風防を修理します。
新しい風防を用意しようか迷いましたが、可能な限り元の素材を活かしたかったことも有り、ダメ元で風防の研磨を行います。
大半の傷は中層付近までのひび割れだった事と、風防の素材がプラスチックだった事が幸いし、
サンドペーパーで荒削りを行い、最終的にポリッシング仕上げすることでかなりきれいな状態まで修復することが出来ました。
深い傷は消しきれませんでしたが、文字盤を見ることすら困難だった状態からは大きく改善できたと思います。
風防の厚みが減っているので耐衝撃性はかなり落ちていると思われますが、通常使用では問題なさそうなレベルです。
風防の修理のあとは、錆と汚れに侵されたダイヤル(文字盤)の修復です。
出来る限り錆と汚れを落とし、白っぽかったであろう盤面の面影が分かる程度には修復できたと思います。
少しやりすぎたのか、文字盤の印字が一部なくなってしまいました^^;
最後に、最も腕時計の印象を左右する部分であると言っても過言ではない、腕時計のベルトを作成しました。
標準的なベルトデザインで、キャメルカラーのシェーブルを表面に使用しています。
裏面はナチュラルなヌメ革です。
革ベルトは手に優しく巻きついてくれるので、金属ベルトでは味わえない快適な装着感が特徴です。
ただ、汗に弱く、寿命は1~2年程度です。(毎日つけない、夏場使用しないなど工夫次第で寿命は延びます。)
大半の革製品は長年修復できますが、汗を吸って劣化してしまった革ベルトの修復は出来ません。
腕時計のベルトでは本革ベルトはとても贅沢な選択肢ですが、オシャレでつけ心地は抜群です。
腕時計の印象はベルトで大きく変わります。
同じ腕時計でもベルトの素材や色を変えるだけでまるで別物のような印象が出せる為、季節によってベルトを変える事で様々なコーディネートが可能です。
今回修復した腕時計も、修復前はとても悲惨な姿でしたが、丁寧に磨いた金無垢の色とキャメルカラーのベルトが相まって、とても可愛らしい姿になって蘇りました。
ベルトが変わるとこんなにも印象が激変します。
本体は安い腕時計でも本革のベルトに変えるだけで一気に高級感が出せてしまいます。
腕時計のベルトはとても奥深く、いつも身につける物のため、選ぶ楽しみも格別です。
Maison Methuselahでは腕時計のベルトのスペシャルオーダーも対応しています。
素材や仕様によって価格は変化しますので、ご興味がある方はお気軽にお問い合わせ下さい。
最後に・・・。
想定以上に時間がかかり大変な作業でしたが、綺麗になった姿を見るとやってよかったなと思います。
綺麗な状態を維持するには日頃からのお手入れが大変重要です。
革製品の簡単なお手入れ方法はこちらにも記載していますので、御覧ください。
あなたが大切にしているモノがいつまでも美しい姿を維持できるよう、たまにはゆっくりとお手入れしてあげて下さいね。